天使は君の何処に触れたのだろうか
最近詩集がほんとうに好き。
- 作者: アレス・デベリアク,石原武
- 出版社/メーカー: 花神社
- 発売日: 1998/03
- メディア: 単行本
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結局のところ、なぜ悲しいのだろう。なぜ不安なのだろう。僕たちはフィンランドの湖の深さも、シベリアの針葉樹林帯の寒さも、ゴビ砂漠の地図も知らない。君の夢に何があるのか、自分の夢に何が棲んでいるのかも、分からない。それが当然かもしれないが、君はいつものように、暗闇で耳を澄まし、マッチで火を灯し、前を見つめる。(中略)沈みゆく太陽に頭を下げ、黒髪靡かせ、全速力で駆けていくのを見る。行ってしまう。君が全世界の過去と未来を描いているあの短い詩を思い出せないのはそれ故なのか。そしてなぜ暗闇がみんなの物語を、君に見せまいとするのか、――――
かれはまだ此処にいる。ぼんやりと、愛する人たちの名前を呟いている。熱っぽい眠り、隣の男がかれの方に寝返りをうつ。(中略)胸の鈍い痛みが止まらない。部屋の中は、全く平和、古びた木目から光線。かれは泣こうとする。泣けない。ベイカリーでは中国人が働き始める。
1990年スロベニア、十日戦争の一年前に書かれたらしい。