中原中也
- 作者: 中原中也,粟津則雄
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1990/09/04
- メディア: 文庫
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両足を、水仙菖に突つ込んで、眠つてる、微笑むで、
病児の如く微笑んで、夢に入つてる。
自然よ、彼をあつためろ、彼は寒い!いかな香気も彼の鼻腔にひびきなく、
陽光の中にて彼眠る、片手を静かな胸に置き、
見れば二つの血の孔が、右脇腹に開いてゐる。
天窗は、ほのぼの明る火影の核心
窓々の、硝子が空にひつそりと鑛金してゐる中庭の中
敷石は、アルカリ水の匂ひして
黒い睡気で一杯の壁の影をば甘んじて受けてゐるのでありました・・・・・・・・・・
≪御存じ?妾(あたし)が貴方を亡くさせたのです
妾は貴方のお口を心を、
人の持つてるすべてのもの、
えゝ、貴方のお持ちのすべてのものを
奪ったのでした
その妾は病気です、妾は寝かせて欲しいのです
夜の水で水飼はれるといふ、死者達の間に、
私は寝かせてほしいのです
恍惚としてゐる、牧歌の極限を私は想ふ!