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- 作者: 三島由紀夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1970/07/17
- メディア: 文庫
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音楽はもちろんのこと、文字でさえ音を想起させる。しかし絵画だけは、完全な静寂を守ることができた。のちになって治英の夭折を考えると、彼がその短い人生のあいだに、何か時間を占領し、時間を埋めるような性質を持った芸術を、生への脅かしと感じたことは理会できる。彼にとっては時間が生であって、絵画はその短い生をつかのまでも停止させ、延長させるよすがとなった。一方どんな短い音楽でも、それは時間を蝕み、生を陶酔によって短くし、常よりも早く終わらせてしまうように思われた。治英はたしかに陶酔をさけていた。
こうして喋ってる私もいつか確実に死ぬ。否応なく死ねる。