彼岸過迄

彼岸過迄 (新潮文庫)

彼岸過迄 (新潮文庫)

「貴方は妾を御転婆の馬鹿だと思って始終冷笑しているんです。貴方は妾を……愛していないんです。つまり貴方は妾と結婚する気が……」

「そりゃ千代ちゃんの方だって……」

「まあ御聞きなさい。そんな事は御互だと云うんでしょう。そんならそれで宜う御座んす。何も貰って下さいとは云やしません。唯何故愛してもいず、細君にもしようと思っていない妾に対して……」

彼女は此所へ来て急に口籠った。不敏な僕はその後へ何が出て来るのか、まだ覚れなかった。「御前に対して」と半ば彼女を促す様に問を掛けた。

彼女は突然物を衝き破った風に、「何故嫉妬なさるんです」と云い切って、前よりは劇しく泣き出した。僕はさっと血が顔に上る時の熱りを両方の頬に感じた。彼女は殆どそれを注意しないかの如くに見えた。

「貴方は卑怯です、徳義的に卑怯です。……」

「考えずに観るのが、今の僕には一番薬だと思っています。

僅かの旅行で、僕の神経だか性癖だかが直ったと云ったら、直り方があまり安っぽくって恥ずかしい位です。

が、僕は今より十層倍も安っぽく母が僕を生んで呉れた事を切望して已まないのです。」


以下ネタバレ↓


いったい何ヶ月かかったんだ13ヶ月くらい?やっと終結したーー!

  • 敬太郎が松本を追って探偵してるんだけど電車の降り口どっちから降りてくるかわかんなくてええいままよ!的に運任せに待っているシーン、その後ろに立っている素性のわからない艶めかしい貴婦人
  • 暗示となってそれらにたどり着くまでを導いた洋ステッキ
  • 千代子に対する思いを膨らませながらも高木の存在によって初めて彼女を愛していることに気が着いた市蔵
  • 愛情が次第に嫉妬に変化していきながら、自意識に苛まされる様
  • 緻密な精神描写

面白かったです。ステッキの暗示、ぞくぞくした。

てか1912年1〜4月に朝日新聞に掲載してたとか、え、こんなん新聞に載っけていいの?

やはりこの尋常じゃない文才クオリティを紙面で読むことができたということは非常に素晴らしいことだと思うんだけど、小説っていうかただ恋愛とか自意識とか生い立ちとかそういうこと考えすぎてメンタルやばかったときの誰にも見せれないこっ恥ずかしい日記がまかり間違って新聞に載っちゃったみたいなかんじじゃないですか。おお恥ずかしい!

これ載せてみんなで読んで「今日の回さーやばかったよねーマジ千代子性悪」「てか市蔵は奥手すぎ、ちゃちゃっと手ー出してやれよ千代子はずっと待ってんだよあーやきもきするわぁ」などと談義してたのだろうか。すんげー時代だな。やはし。

夏目ワールドすげええええ

死ぬまでに夏目漱石文庫読破しよう。目標いち。

あとDBとハンターハンターも読まなきゃ。いかんまだ死ねないわ。