バイト

最近寒さでめっきり客足が減って、店の家計簿は火の車です。年末年始は大勝利を修めたものの、ここに来て割と厳しい状況です。そんな状況を何とかすべく、先日から何かいい行動は起こせないかと上の方で模索され決定されたのが、入口での声出し。冷たい夜風に吹かれながら、仕事帰りの人々に声をかけます。店仕様の派手なカラーコートを着て店頭に立ちますが、2月の夜風は肌に刺さるような寒さで、10分もしたら膝がガクガクし出します。しかし店のコートを纏って店頭に出る以上、展開する全店舗を背負ってそこにいるという意識が生まれる訳で、そう思うとなんとなく寒さも紛れ、背筋が伸びます。
挨拶やアピールをしながら外に立っていると、交差点からいろんな方向に人が歩いていきます。大概が背広やスーツを来た男性女性で、年齢は新社会人風の若い人から上司の肩書を持つであろう年配の人まで、いろんな人がいます。時々、大学生らしい集団がおしゃべりをしながら歩いて行ったり、近くの工事現場に器材を運ぶ黄色メットのおじさんが空の台車を押して行ったり、向かいの通りの店の板前さんが「寒いっすねぇ」とぼやいて行ったりします。
信号が青に変わる度に、人波は駅の方へ足早に去っていきます。冷たい風から身を守るように肩をいからせて、声出しする私と目を合わせないように、でも申し訳程度にこちらを窺う気配を見せて去っていきます。そんな人々を見て、私は一人一人にお疲れ様を言いたくなりました。私のことなど見なくてもいいし覚えなくてもいいんです。今日一日働いて今からそれぞれのお家に帰る人々の、一日の終わりを道の路傍で見届けている自分に出来ることは何だろうと思いました。挨拶とアピールの後に、自然と「お疲れ様でございます」が口から出るようになりました。私よりいくつも上の年齢の人々で、今までにいろんなことを経てきて、今日だってきっといろんな思いを感じながらそれぞれの仕事をしたはずの人々に、道の片隅であなたのことを労っている人間が一人でもいることを、たとえ記憶に残らなくても、あの道を通る瞬間だけでいいから知ってもらえたら、私はうれしいと思いました。
義務教育が終わったら、世の中は一期一会です。引きこもるほどに強くそれを感じます。一瞬の交点を大事にしたいです。