ハイドラ

ハイドラ

黒いキャデラックの中から手を振る松木さんを見つけた時、初めて、かつてないほどの、存在を感じた。私はどこにも存在していない。新崎さんも、美月も小島蘭も京子さんもリツくんも誰もかれも存在していない。ずっとそんな気がしていた。でもそこに、松木さんだけは本当に存在していた。世界とか現実みたいな、実体のないものが、初めて手に取れるようだった。

ガラスのおもちゃをもらった子供がその繊細さ脆さに恐れを抱くように、私は恐れている。でもその綺麗なおもちゃを、自ら手放すことは出来ない。矛盾も破綻もない人は、その恐れをも魅了する。そんな彼の姿に抱くのは、脅威でもあって、憧れでもあって、同情でもあって、羨望でもあって、どうしてだろう私はキスをするたび何度も笑いたくなったり泣きたくなったりを繰り返す。

罪悪感。傷つく予感で本能的に布石をする。

悲鳴をあげる身体 (PHP新書)

悲鳴をあげる身体 (PHP新書)

面白い。だけどこういう本を読み漁っても結局希望は教えてくれない。優しさ押し売りされるよりましなのか